October,13,2020
(当日配付されたレジュメに沿って、ブログ作成者が音源の代替として写真等を添付させて頂きました。)
ビリー・ホリディの代表的録音と言えば、Columbia,Commodoreに代表される前期のものが好まれて聴かれますが、Deccaから始まる中期及び後期の録音は酒や薬による声の衰えなどを理由に余り評価されることが少ないように感じます。今日の特集ではそのDeccaから最晩年のMGMに至るまでの録音をたどることにより、彼女の魅力を再発見していただきたいと考えています。
さて、Deccaへの最初の録音は次の曲から始まります。この作詞者については新たに発見された逸話などが残っていますが、その話は次の機会にして先ずは聴いていただきましょう。
- 「Lover Man (oh, where can you be?)」(0ct,04,1944)(Decca,MCA-3029)
Billie Holiday with Toots Camarata Orchestra(NYC, 50 West 57th Street, Decca Studio’s)

Deccaでは多くがストリングスの伴奏で録音されましたが、そのためにより彼女の唄に焦点が当てられ、唄の素晴らしさを十分に味わうことが出来ます。映画『New Orleans』の撮影の合間に行われた次のコンサートでは、麻薬の影響で音程が不安定となり、彼女本来のパフォーマンスをすることが出来ませんでした。
- 「Trav’lin’ Light」(0ct,07,1946)
prob. Howard McGhee(tp) Trummy Young(tb) prob. Illinois Jacquet(ts) Kenny. Kersey(p) Barney Kessel(g)Charlie Drayton(b) Jackie Mills(ds)(LA,Shrine Auditorium)

1947年になるとエスクワイアー誌の表彰記念として、アーサー・ゴッドフリー・タイムに出演します。
3.「The: Man I Love」(Jan,13.1947)(Totum 1037)
Arthur Godfrey Time -,Including ’Esquire Gold Awards 1947’
(New York City, CBS Studio 58) withTeddy Wilson(p)

Decca時代には名唱が多いのですが、その中でも一二を争うのが次の録音です。声良し、表現力良しで文句の付けようがありません。
- 「Crazy He Calls Me」 (W75422-A)(0ct,19,1949)(Decca MCA-3029)
Gordon Jenkins and his Orchestra
(New York City, 50 West: 57th Street, Decca Studio’s)

次はStoryvile Clubでの録音を聴いて下さい。珍しくもStan Getzが伴奏しています。

- 「Lover Come Back To Me」(0ct,29,1951)(Storyville. K18P9350)
Billie Holiday& Her Trio with Stan Getz (Boston, Storyville Club, Copley Square Hotel)
Stan Getz(ts) Buster Harding(p) Jimmy Raney(g) John Fieds(b) Marquis Foster(ds)
彼女の長年の飲酒、ドラッグ、タバコによりこの頃から声が荒れてきます。その頃Billieはノーマン・グ ランツのMercuryレコードとの初めてのスタジオ・レコーディングを行います。

- 「East of The Sun」(Mar,26,1952)(Verve 314 513 860-2~869-2)
- 「I Only Have Eyes For You」(Mar,1952)(Verve 314 513 860-2~869-2) Billie Holiday and her Orchestra(Los Angeles, Radio Recorders studio)
1953年8月に以前から抱えていた虫歯による膿瘍が発生し、一時収まったものの10月には再発し、つらか った時期に録音されたのがStoryville Clubでの次の演奏です。膿瘍の影響は余り感じらず、声も少し安定感を取り戻した感があります。その次は1954年1月には初のヨーロッパ楽旅に出発し、楽旅から帰国した後のクラブ出演のものです。

- 「You Go To My Head」(0ct,12,1953)(Storyville K18P9350)
Billie Holiday & Her Trio(Boston, Storyville Club, Copley Square Hotel)
Carl Drinkard(p) Jimmy Woode(b) Peter Littman(ds) - 「Blue Moon」(Mar,07,1954)(UPCD 27.81/27.82)
(Boston, Hi Hat Club)
Carl Drinkard(p) Jimmy Woode(b)
次のセッションではグランツが自由でリラックスした雰囲気にするために、ミュージシャン達にのびのびとソロ交換させ、その中でビリーがスウィングすることにしました。そのセッションから1曲聴いて下さい。

- 「Ain’t Misbehavin’」 (Feb,14,1955)
Charlie Shavers(tp) Tony Scott(cl) Budd Johnson(ts) Billy Taylor(p) Billy Bauer(g) Leonard Gaskin(b) Cozy Cole(ds)
この頃になると音域、イントネーション、ブレスコントロールなどでの限界が明らかになってきており、ため息、ためらうような歌い出し、甲高い裏声、声色に変化を付けるような歌い方になっていきます。しかし次のセッションは共演者の素晴らしさと共にこの時期にしては優れたものと言えると思います。

- 「It Had To Be You」(Aug,23~25,1955)(Verve 314 513 860-2~869-2)
Billie Holiday and her Orchestra (Los Angeles; Radio Recorder’s studio)
Benny Carter(as) Harry Edison(tp) Jimmy Rowles(p) Barney Kessel(g) John Simmons(b) Larry Bunker(ds)
次は1937年1月25日 Brunswickに吹き込まれた同曲と比較して聴くのも良いと思います。

- 「I Must Have That Man」(June,06,1956)(Verve 314 513 860-2~869-2)
Billie Holiday with Tony Scott and his Orchestra (New York City; Fine Sound Studios)
Paul Quinchette(ts) Charlie Shavers(tp) Tony Scott(cl) Wynton Kelly(p) Barney Kessel(g) Aaron Bell(b) Lenny McBrowne(ds)
さて、いよいよ議論の的になった『Lady in Satin』からの一曲です。このアルバムはこれまでの彼女の人生と彼女の唄との関係を深く知れば知る程、感銘を与えるものとなっています。ただこの録音のディレク ターでもあるレイ・エリスは「たった一つのフレーズを歌うだけででも、彼女は音程を維持できなかった。 私は今でも、このアルバムを聴くたびに悲しくてやりきれないんだ」とも語っています。

- 「I’m A Fool To Want You」(Feb,20,1958)(Columbia 88697492002)
Ray Ellis and his Orchestra(Now York City)
いよいよ彼女の最後のスタジオ・レコーディングに臨みます。この時彼女は高い椅子に看護婦が脇を支えてもらいながら唄っていたそうです。またこのレコーディングはシナトラみたいに唄いたいと言い、下記の曲もアルバムに入れられました。

- 「I’ll Never Smile Again」(Mar,03,1959)(MGM MM2091)
Billie Holiday with Ray Ellis & his Orchestra(New York City, Metropolitan Recording Studio)
今回はビリー・ホリディの中後半生をたどってきましたが、如何だったでしょうか。この時期の録音は案外聴かれていなかったのではないでしょうか。これを機会にもう一度彼女の歌を聴き直して頂きたいと思います。